昨年(2008 年)の原子力学会年会、14 の分科会に分かれた広範かつ膨大なプログラムの中に、「ナトリウム冷却型高速炉の原子炉容器内観察・補修技術の開発」という地味なタイトルが含まれていた。特に注意はしていなかったが、直前に送られてきた予稿集を読んで、「おや、これは何だろう」と思う記述があった。「計測線付実験装置と回転プラグとの干渉」という短い記述である。胸騒ぎを覚えて当日の口頭発表を聞きに行き、そこで高速増殖実験炉「常陽」で事故があったことを初めて知ったのである。
常陽は茨城県大洗町にある熱出力14 万キロワットの実験炉で、発電設備は備えてない。現在はもっぱら将来の高速増殖炉用燃料や材料の開発のための照射試験用原子炉として使われている。
「常陽」の炉心は、「もんじゅ」と同じような六角形の燃料集合体85 体で構成されている。照射試験は、炉心のど真ん中を含む6 ヶ所で行えるようになっている。2007 年5 月の定期検査時に、そのうちの1 つに入れていたMARICO - 2 と呼ばれる照射試験用実験装置を抜き、原子炉容器内壁近くのラックへ移した。MARICO - 2 をそこで切り離し、移動装置だけ元の位置に戻した。ところが、照射実験装置がラックにキチンと収まっていなかったか、あるいは移動装置の掴みがはずれなかったために、移動装置の移動によってMARICO - 2 の上部が引きちぎられてしまった。MARICO - 2 はラックの上へ9 センチもはみ出し、その突起物が、移動装置の移動にともないラック上を通過した炉心上部機構にぶつかり、炉心上部機構の下面を破損させた(図)。
ところが、事故の発生は約6 ヶ月後までわからなかった。11 月の燃料交換作業で操作不能が起こり、その原因調査で初めて損傷に気がついたのである。破損の発生も、それに気がつかなかったことも、ナトリウムが水とちがって不透明なことが基本的要因となっている。その不透明さが、破損の調査自体も大変困難にした。破損部を探査するためには、原子炉容器内のナトリウム液位を、炉心上面が裸になるまで下げなければならない。炉心上面と炉心上部機構の間はわずか7センチだ。炉心上部機構の下面を調査するには、その隙間へ上向きの観察・撮影機器を差し込み、原子炉容器外から遠隔操作できる特殊な取扱装置を開発しなければならない。学会の発表はその装置の開発と模擬テストを報告するものだった。特殊装置による調査の結果、炉心上部機構の下面では制御棒案内管が曲げられ、冷却材の整流板が下へ垂れ下がっていた。照射実験装置の移動装置は引きちぎられたMARICO - 2 の上部(ハンドリングヘッド)を掴んだままの状態で、それを試料部とをつないでいた6 本のピンはなくなっていた。数々の損傷の中でも制御棒のスム-スな動作を妨げる案内管の損傷、原子炉容器内に散乱された固定ピンの行方は、安全上極めて重大な事態である。
同様の事故が「もんじゅ」で起こればどうなるだろうか。そもそも「もんじゅ」では、究極の事故=炉心崩壊事故対策として、ナトリウム液位を炉心上面が見えるところまで下げられない構造になっている。破損を見つけること自体できない。
「常陽」で失われたピンの探索・回収は困難を極める。前例が、1966 年、米国高速増殖実験炉フェルミ炉で起こった。剥がれた板が冷却材流路を塞ぎ、過熱した燃料が溶融した事故である。特殊な遠隔操作機具を開発し、失われた板の回収に2 年近くを要した。固定ピンはより小さいため、探すだけでもフェルミ炉事故の場合よりずっと困難だろう。どこかに挟まり冷却材の流れを塞げば炉心溶融につながる。炉心が溶融すると原子炉の反応度が増大するので暴走事故につながるかもしれない。(フェルミ炉や「常陽」は実験炉で小型のため、その影響は「もんじゅ」より軽減される)。原子炉容器内に異物を落としてしまうトラブルはあり得ることだ。高速増殖炉ではそれが致命的になる可能性が大きい。
「常陽」の事故は、軽水炉にない高速増殖炉特有の危険性を如実に示している。それが、原子力界内で目立たぬように処理されようとしている。修理には2 年~ 4 年、40 億円~100 億円の費用がかかると言われている。こんな原発が実用になるはずがない
Jun 24